清らかに

若手芸人の僕が、やらなくなったネタを埋葬していきます。

最後の柵

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設定 ビルの屋上

登場人物

斎藤 30代の仕事ができないサラリーマン。1歳の息子がいて、正義感が強い。

細めの男 色白で長い髪。ぼーっとしている。20代前半。

視点 斎藤 

「きついな。」

タバコを吸いながら斎藤は思う。

ここは都会のど真ん中、新宿のとあるビルの屋上だ。

下に戻ればまた山積みの資料の整理に追われる。

ただ1歳の子供と妻の為に頑張らねば。

「缶コーヒーでも買おうかな。」

そう思い、下に降りようとした時、さっきまで柵の内側にいた男が外にゆっくり出ようとしている。その男は、異常に細い。

斎藤「おい!!何をしている!!!」

細い男「‥‥」

斎藤「まさか自殺しようとしてるんじゃないだろうな!!」

細い男「‥‥」

斎藤「バカな考えはやめろ!お前にも両親がいるんだろ!悲しむぞ!」

すると細い男は一瞬こちらを向いたがすぐに外を見る。

話は聞いている!何とか止めないと。

斎藤「自殺する前にこれも出会いだ!最後に俺に相談して見ろ!何でもうけとめてやるから!」

そう言いながらジリジリと細い男に近づいていく。

斎藤「まだ若いだろ!まだまだ楽しいことなんていっぱいあるぞ!」

また細い男がこちらをちらっと見た。

その瞬間、後ろから抱きかかえ、何とか内側に引きずりこんだ。

そして強く抱きしめた。

斎藤「苦しかったんだろ。わかるよ。人生色々あるもんな!辛いのはわかるけど必死に生きていかないといけないんだ。これから楽しいことなんていっぱいあるんだ。」

細い男も斎藤を強く抱きしめた。

斎藤「俺が相談に乗ってやる。会社をクビになったのか。恋人に振られたのか。全て俺がうけとめてやるから、何があったか言ってみろ!」

細い男「殺人です。」

斎藤「えっ。殺人?」

細い男「はい。なんかありがとうございます。死のうと思っていたんですが、相談できてよかったです。もうちょっと頑張ってみます。」

斎藤「えっ。」

細い男「私はまだまだやらねばならないことがあります。」

斎藤「やらねばならない?」

斎藤は細い男をさっきとは違う意味で強く抱きしめた。

斎藤「うわーーー!!!!」

こういう場合、人にはいろんな選択肢があると思う。

逃げる、動けなくなる、流す。

斎藤の場合はこれだ。

斎藤「殺人犯だー!!!誰か助けてくれー!!!」

細い男「ちょっと待て!話を聞け!」

斎藤「誰か!こいつを殺してくれ!」

斎藤は今までの全ての力をかけて捕まえている

だがここは屋上、周りに聞こえるはずがない。

斎藤「くそ。こうなったら」

少しずつ先に押し出していく

細い男「やめろ!何するんだ!」

斎藤「大人しくしろ!絶対に逃さない!絶対に逃さない!」

細い男「ちょっと待て!話を聞いてくれると言ったろ!待ってくれ!」

斎藤「殺人犯の話なんて聞くか!!!」

策にたどり着いた。

斎藤「悪いやつ悪いやつ!!!!!」

細い男「待て待て!!!」

細い男の片足はもう塀の外に出て宙ぶらりんだ。

細い男「人殺しだけど、ちょっと違うんだ!」

斎藤「言い訳するな!!!人殺しは人殺しだ!!!!!」

そう言いながら思いっきり、突き落とした。

斎藤「俺はいいことをした。俺はいいことをした。大丈夫。大丈夫」

自分に言い聞かせる。

ふと見ると男の遺書と見られる封筒が靴の下に挟んであった。

斎藤は朦朧とする意識の中、それをなぜか読んでいた。

拝啓、

ご遺族の皆様。

この度、とても簡単な手術のを、

私の医療ミスにより、死なせてしまい、本当にすいませんでした。

僕は殺人犯です。

死んで詫びようと思います。申し訳ありませんでした。

‥‥‥‥‥‥

うわーーーーーーーーーーーー!!!!!!!

泣き崩れた。

どっちが上でどっちが下かもわからなかった。

何分泣いただろう。

声が出なくなっていた。

斎藤「ふっ。ふふふふぅぅ。はっはっはっ」

大笑いをした。

笑いながら柵をまたいだ。